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ヒューマニズム溢れる書家であり、同時に水墨画家として新しい道を歩む、ふたつの道の求道の研鑽を遂げつつある、まことに天才に恵まれた羨むべきアーティストである。 すでに三才の幼少の頃から書道を始め、書の完成の域に達していたが、象形を淵源としやがて簡潔な記号形象としての発達のプロセスを、あたかも逆行するようにして求めたのが、絵画表現に到達したきっかけとなっているようにみられる。 絵への突破口を切り開いたのは、なんと近年の二〇〇五年頃からで、書教室で子弟を教えているとき偶然に閃き、以来どっと奔流のようにして絵が迸り出たのである。 もともと書によって鍛えられ抜いた毛筆による線描の生き生きとした張りのある線に、水墨画としては珍しい陰影による三次元を想わせる立体表現のあることが特色である。 「道」や「門」といった<人生>において歩まねばならない行程を暗示するゲートや哩標程と位置づけられるメモリアルな作品、あるいは「越え、潜り抜けなければならない」前方に立ちはだかる<門>が、哲学的に品格をもって表現されて印象的である。 しかもデッサンは確実で、リアリズムの範であると同時に、「時代の影」シリーズにみられるように、<現代>に向かって強力に発言しようとする「教示」や「愛」の説得が優しく感じられ心を打つのである。 暗鬱や混迷の現在の世相にも厳しい眼(まなこ)を向け、病んだ人の心を励まし、芸術によって癒してゆこうとする内田百音さんの行方に大きな期待を寄せるものである。
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